翔太と猫のインサイトの夏休み―哲学的諸問題へのいざない
「恋が愛に移行するためにはね、歴史が必要なんだ。」
翔太と猫のインサイトの夏休み―哲学的諸問題へのいざない (ちくま学芸文庫)
おすすめ…★★★☆☆
ジャンル…哲学、教養
【あらすじ】
哲学とは何よりもまず、好奇心と探究心に満ちた子どもの遊び場だ―。中学生の翔太と猫のインサイトが、「いまが夢じゃないって証拠は?」「心があるって、どういうこと?」「たくさんの人がいる中で、ある一人だけが『ぼく』なのはなぜ?」「死ぬって、どういうこと?」といった問いをめぐり対話する。「私」が存在することの奇跡性のほか、実在論や可能世界、正義原理、言語ゲームなど哲学の諸問題を取り上げ、自分の頭で考え抜くよういざなう。予備知識のいらない、「子ども」のための哲学入門。
【感想】
子供のためと釘打ってるが、
前に紹介した「史上最強の哲学入門」より難しかったかもしれない。
「この世はVRみたく見せられた幻想世界で実は我々の脳は宇宙船の実験室にあるのかもしれない」(←簡単に言えば映画アバターの世界)
「あるいは夢の世界が本当の世界で、現実だと思ってる今の世界が夢の世界なのかもしれない」
そんな話がバンバン出てくる。
読んだのは随分前だけど、ずーっと印象に残っているのはこのシーン。猫のインサイトは学校に好きな子がいる主人公に対し、こんなことを言った。
「もしもその子が病気になって髪の毛が無くなってしまったら、あるいは事故で顔が無くなって植物人間になってしまっても、君はそれでもその子を愛せるかい。」
そして、こう続ける。
「恋はその人の持っている何らかの性質に向けられるものだけど、愛はそうじゃない。愛はね、その人そのものに向けられるものなんだよ。」
私も主人公と一緒に考えてしまった。
確かに、恋するときは相手の良いところしか見ないけど
愛はその人がどういう状態だとかどうでも良くて、その人がその人であることに意味を見出すものかもしれない。
そこまでの境地に達するには縁と相性とタイミングがものすごーーく重要なんだよね…(そしてある日突然、あっさり切れてしまうこともある)
まぁこれはあくまでたとえばの話だけど。結婚した後、嫁の性格が変わった、冷たくなったという話を聞くことがある。
奥さんの言い分を見れば、結婚前は魅惑的に見えていた相手の気ままさが結婚後は家庭や子供のことを顧みない単なるワガママで身勝手な男としか思えなくなる、と言ったところだろう。
それだけ、恋なんてどうでもよくなるくらいに子供のことが大事になる。これが愛というものかもしれない。
容姿が美しいからとか大勢の中で優秀だからとか「◯◯だから」好きとか、そういうことじゃない。
理由なんてないけど、大切。これが愛なのだろう。
【翔太と猫のインサイトの夏休み―哲学的諸問題へのいざない】